現代日本紀行文学全集(西日本編)

所収の、志賀直哉「早春の旅」を読む。初読。息子を可愛く思う父親の気持ちが素直に伝わってくる佳篇。映画でいえば、ロード・ムーヴィーということになるのだが、単純に映像に置きかえることのできない、読むことでしか得られないイメージの数々で綴られたそれになっている。言葉が、ところどころで物語に沿う流れを澱ませたり、外に溢れ出たりさえしながら、流れの正面から見る一幅の絵としては、その時間のイメージが複雑に塗り重ねられるかたちになることで、作品に微妙な陰翳と奥行きをあたえているのである。