『ある海辺の詩人』

“Io sono Li”@シネ・リーブル梅田。2011年、アンドレア・セグレ監督、仏・伊。

古代中国の詩人屈原と現代イタリアがどんなふうに出会うことになるのか、ワクワクして観ていました。
媒介項としてユーゴからの移民である漁師とヴェネツィア近くのラグーナというロケーションがありました。
いい映画でした。


ヴェネツィアの少し南にあるキオッジャという小さな港町が舞台です。
そしてここにも資本主義化した「中国」の進出があります。
彼らは一種独特の移民共同体を形成しています。
幼い息子を祖国から呼び寄せるために、海辺の小さな酒場“オステリア”で働くことになったシュン・リーは、地元にとけ込んでいる旧ユーゴからの移民の老漁師ベーピと出会います。
二人は孤独を理解しあい、詩を通じて互いに心を通わせていきます。


そういえば屈原に仮託した後世の作とされる詩(の一部)に次の言葉がありました。

滄浪の水清まば
以て吾が纓(冠の紐)を濯ふべし
滄浪の水濁らば、
以て吾が足を濯ふべし

屈原の言を聞いた漁夫は笑ってそのあまりの潔癖さをこう諭すように歌って去って行くのでした。


悪い評判を気にするシュン・リーのボスが二人を引き裂こうとします。
子供と一緒になりたい一心でシュン・リーはベーピに別れを告げるのですが...
臨機応変さがなかったのは、はたしてベーピだったのでしょうか? 
それとも...


陸でも海でもなく、その中間にあって見え隠れするラグーナ(潟)の濃い朝霧は、周りのすべてを溶かし込んでしまう。
他方、昼の強い日差しの下では、碧いアドリアの海原の向こうに冠雪したイタリア・アルプスの峰々が屏風のように屹立する姿が、何とも眩く神々しい。


『長江哀歌』でも主演した女優チャオ・タオ(Zhao Tao)が、どんどんチャーミングに見えてくるのも不思議な喜びでした。