2012年の3冊番外編

1、港千尋『掌の縄文』
掌の縄文
これは写真集です。不思議ですね。博物館などで縄文土器の実物を見ても、こんな感覚はめったに味わえません。手袋などつけていない裸の手が、掌がじかに土器に添えられている。そのためでしょうか。土器だけが写された写真でさえも、もはやそれだけでは感じられなかった、ある感触が伝わってくるのです。長い長い時間を瞬時に跳び越えてきたかのような、その微かな感触を思い起こすとき、それが骨董品でも美術品でもなく、まずは日々の生活に使われた日用品であり、平穏なありふれた日常に対する懐かしさであることに思い至ります。


2、國分功一郎『暇と退屈の倫理学
暇と退屈の倫理学
退屈を恐れるな。最近の私のモットーの一つです。本を読んで(実際はなるべく読まずに済ませて)結論だけを果実として手に入れようとする人は、読むというプロセスそのものに楽しさや贅沢があることを(知ってか知らずか)見逃しています。消費は観念なので浪費のような足りるという感覚は生まれません。自分のやり方で贅沢を取り戻そうと國分さんは述べています。また、楽しむには訓練が必要だとも。そして、人間は放っておくと考えないようになる。それは楽だからであって、ほんとうに楽しむことではない。楽しみこそが私たちを思考に導いてくれる水先案内人であると。


3、小倉美惠子『オオカミの護符』
オオカミの護符
近代は土地や言葉といった「native」なものから離れる/自由になる方向で進んできました。ただ、この先どこに向かって行くのかを考えるときに、いつも気になっていたのが、私たちがどこから来たのかという問題でした。小倉さんは、実家にあった護符に呼びかけられるように、謎を解く旅に出掛けます。オオカミはたんに異類というだけでなく、大神でもあります。そのカミと人々はどう関わってきたのか。サル(人間)にはないオオカミのもつ良さについてはマーク・ローランズ『哲学者とオオカミ』に教えられることが多かったので、今度はショーン・エリス『狼の群れと暮らした男』を読んでみたいと思います。